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真夜中のサーカス52

時間: 2020-03-21   
核心提示:小人の曲蕓二港屋文房具店を出て、夕方近い大通りの歩道をのろのろと歩きながら、「おらは、またやってしまった。」とチサは思っ
(單詞翻譯:雙擊或拖選)
小人の曲蕓

港屋文房具店を出て、夕方近い大通りの歩道をのろのろと歩きながら、
「おらは、またやってしまった……。」
とチサは思った。溜息が出た。
きょうも、消しゴムを一つ、やってしまった。これで、家の寶箱には、消しゴムばかり十二個も溜まることになる。
チサは小學校の五年生だから、消しゴムは學用品の一つである。それにしても、消しゴムばかりこんなに溜めて、いったい、どうするつもりなのだろう。チサは、自分で自分のしていることがわからない。どうしてこんなことになったのだろう。
四年の終りごろまで、こんな消しゴムなんか、一個もなかった。三年に進級したとき買って貰った緑色の消しゴムが、グリーンピースほどにちいさくなって殘っているきりだったが、それもいつか學校の帰りに、浜通りへ降りる|崖《がけ》の坂道で筆箱を落としたとき、鉛筆のキャップと一緒になくしてしまった。鉛筆のキャップなら、なければなくてもいいのだが、消しゴムがないと困ってしまう。それで、病気で寢ている母親から十円貰って、駅前通りの潮文堂へ買いにいった。
潮文堂は、町でいちばん大きな文房具屋で、店には消しゴムだけでも何十種類となく置いてある。色も、形も、値段も実にさまざまである。いちばん|廉《やす》いのは十円で、チサはそれを買う金しか持っていなかったが、買ってさっさと帰る気にはなれなかった。
一と口に消しゴムといっても、こんなに沢山の種類があるのだ。みるだけなら、ただなのだから、しばらくみて楽しんでから、買って帰ろう。そういうことにして、一つ一つ手に取ってみているうちに、消しゴムは色や形や値段のほかに、匂いにも違いがあることがわかった。
安物は、匂いだけ嗅いでみると、駄菓子屋のお菓子と変らない。十円のやつなど、まるでハッカ入りのチュウインガムみたいな匂いがする。チサは、それが消しゴムの匂いなのだと思っていたが、とんでもないことがわかった。値段が高くなるにつれて、お菓子のような匂いがだんだん薄れて、ゴムの匂いが強くなる。そのゴムの匂いも、五十円を越すといかにも|香《こうば》しくなる。
チサは、ハッカ入りのガムみたいな匂いのする十円の消しゴムを買うのが、恥ずかしくなった。今度はもう五年生なのだから、せめてゴムの匂いのするのが欲しかった。けれども、十円で五十円のを買うわけにはいかない。
ちょうど店は新學期の売り出しで、子供の客で|賑《にぎ》わっていた。みていると、高學年の生徒で十円の消しゴムを買う者はほとんどひとりもいなかった。みんな三十円、四十円のを買っていく。今度小學校へ入學する子供でさえ、連れの母親にゴムの匂いのするのを買って貰ったりする。チサは、くさった。なにさ、一年坊主のくせに。一年坊主はハッカ入りのガムで沢山なのだ。そう思うと、ますますその十円のを自分で買うのは|厭《いや》になる。
ぐずぐずしていると、同級生の女の子がひとり、ひょっこり店にやってきた。
「なに買いに?」
と訊かれて、チサは、うっかり、
「消しゴム買いに。」
と正直に答えてしまった。
「おらも。」と相手はいって、「どれにしようかな。……これにしよ。」
チサは、もしも相手が十円のを選んだら、自分も「付き合うわ。」といっておなじものを買おうと思っていたのだが、相手が選んだのは四十円の、尻に|刷毛《は け》のついた上等のだった。
「チサちゃんは? どれにする?」
「おらはもう、買ったから。」
チサはあわててそういった。きょうはもう、このまま買わずに帰ろうと思った。
相手は金を払って戻ってきた。
「まだなんか買うものある?」
「おらは、なんも。」
とチサはいった。
「じゃ、一緒に帰るべ。」
二人は潮文堂の店を出た。
途中で相手と別れてひとりになると、チサは舌うちして、やれやれと思った。たまには自分も人並みに駅前通りで買物をしてみたいと思ったのだが、やはりあんなお上品な店は性に合わない。浜の子は、いくつになっても浜の小店でしか物が買えないようにできているらしい。
チサは、歩きながらズボンのポケットに手を入れてみた。潮文堂ではとうとう出し兼ねた十円玉を、なんとはなしにちょっと握ってみたかったからである。ところが、十円玉より先に、なにやら憶えのないものが指先に觸れた。なんだろう。妙なものが入っている。そう思いながら取り出してみると、それは真新しい消しゴムであった。チサはびっくりして立ち止まってしまった。
これはどうしたことだろう。
白くて、柔らかそうな肌をした、いかにも消しゴムらしい消しゴムであった。チサには|馴染《なじ》みのない上等品だったが、それにも|拘《かかわ》らずチサはその消しゴムに見憶えがあった。ついさっきまで、潮文堂で何度も手に取ってみた五十円の消しゴムに違いなかった。
けれども、それがどうしてポケットに入っていたのだろう。|勿論《もちろん》、買った憶えはないし、十円玉一つでは買えるわけもなかった。実際、十円玉はちゃんとポケットの底に殘っていた。そんなら、潮文堂の品物がどうしてポケットに入っていたのか。
チサは、あわてて消しゴムを握り締めると、その手をズボンのポケットに隠して、そっとあたりを見廻した。自分が知らず|識《し》らずのうちに盜みをしていたということに、そのとき初めて気がついたからである。
チサは、潮文堂にいる間、盜みなどする気は毛頭なかった。けれども、消しゴムがひとりでポケットにもぐり込んだりするはずがない。とすると、やはり自分の仕業だと思うほかはなかった。その消しゴムを何度も手に取ってみたことは事実なのだから、なにかの拍子に(おそらくよその客の気前のよさに気をとられているうちに)うっかりそれを自分のポケットに入れてしまったのだと思わないわけにはいかなかった。
盜みをする気がなかったにしても、金も払わずに黙って店のものを持ち出したのだから、盜みとおなじことをしたことになる。チサは|軀《からだ》が顫えてきた。
潮文堂へ返しにいこうか。正直にわけを話して謝ればいい。そう思ったが、勇気が出なくてぐずぐずしているうちに、三日も四日も経ってしまった。消しゴムは結局チサの|手許《てもと》に殘ったが、盜んだものはとても使う気持にはなれなかった。それかといって、一と思いに捨ててしまうこともできなくて、チサは仕方なく、千代紙を貼った小箱に入れて網小屋の棚に隠して置いた。その小箱は、將來なにか自分に大切な持ち物ができたら入れることにしようと思って、|出稼《でかせ》ぎにいっている父親がいつか土産に買ってきてくれた千代紙を|綺麗《きれい》に貼って|拵《こしら》えて置いたものだが、とんだ寶物を入れることになった。
網小屋は、父親が漁師をやめてからはがらくたの置場にすぎなくなっていた。チサは、ときどき網小屋に忍び込んで、別世界でも|覗《のぞ》くような気持で千代紙の小箱を開けてみた。盜んだ消しゴムを眺めていると、盜みというものの不思議さにチサは酔ってくる。金がなくても、欲しいものはなんでも手に入れられて、しかも、すべてに他人より劣っていると思っていた自分にさえ、あんなに|容易《たやす》くやってのけられた盜みというものの不思議さに、チサはうっとりとして夢でもみているような気分になる。
五年生になってまもなく、習字の半紙を買いに文房具屋へいったとき、チサは売り場に並んでいる消しゴムをみて、突然、盜みの衝動に駆られた。あのときのように、あのときのように——チサは自分にそういい聞かせながら、のろのろとその店を出てきたが、ポケットには確実に消しゴムが一つ入っていた。
その消しゴムを網小屋の小箱に仕舞うとき、チサはただわけもなく涙が込み上げてきて、長いことしくしく泣いていた。悲しいのか嬉しいのか、自分でもはっきりわからなかった。
それが病みつきになってしまって、今度で消しゴムの數も十二になる。消しゴムばかり、こんなに集めてどうするつもりかと、自分でも呆れるような気持なのだが、みれば、つい手が伸びてしまうのだから仕方がない。
文房具屋だけでなく、ほかの店でも——たとえば薬屋でもこんなふうにできたらと思い、二、三度、様子を窺ってみたが、薬の數がおびただしくて、いったいどれが母親の病気に効く薬なのか、とても見分けがつかないから諦めてしまった。
チサの母親は、ここ數年來、右の乳房を病んでいる。乳房の|芯《しん》になにやらぐりぐりとした塊があって、それがだんだん大きくなる。軀は衰弱する一方なのに、乳房のぐりぐりだけはめきめきと肥え太る一方である。
あのぐりぐりを|忽《たちま》ち|融《と》かしてしまう薬はないものだろうか。あるなら、その名を知りたいが、クラスの級長に相談してみると、そんなことなら薬屋へいって訊いたらいいと級長はいった。まさか。いくら盜みの筋がよくても、薬屋で、はい、これがその薬です、と目の前に出されたものを盜み取るのは、不可能である。
母親は日増しに衰えて、消しゴムばかりが増えてくる。
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