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真夜中のサーカス49

時間: 2020-03-21   
核心提示:赤い|衣裳《いしよう》六夕方近く、良作は気分直しにヒデを浜歩きに連れ出した。べつにこれといった名所もない、寒々しいばかり
(單詞翻譯:雙擊或拖選)
赤い|衣裳《いしよう》

夕方近く、良作は気分直しにヒデを浜歩きに連れ出した。べつにこれといった名所もない、寒々しいばかりの北國の浜だが、海そのものが珍しいヒデの気持を引き立てるには、ちょっと効き目がありすぎるほどの散歩になった。ヒデは、砂浜でちいさな貝殻を拾ったり、|渚《なぎさ》で砕けた波の舌と戯れたり、濡れた砂に棒切れで絵や文字を書いたり——このあたりの子供なら五つになればもうしないような、そんな幼稚な遊びを飽きもせずに繰り返した。
彼は、そんなヒデをみていて、ほっとすると同時に、妹を哀れに思う気持が一層募るのをおぼえた。俺がしっかり働かねば、と彼は思った。しっかり働いて、いつかはこの妹とおふくろを町へ呼ばねば。
その晩、彼は寢る前に、ヒデを町の銭湯へ連れていった。村にいれば、熱い湯に首まで漬かることなど、二カ月にいちどあればいい方なのだ。一時間という約束だったが、彼は銭湯の前で三十分も待たされた。
「かんにん……かんにんな。」
そういいながら走り出てきたヒデをみて、彼はちょっと目を|瞠《みは》った。洗い髪のせいか、見違えるような顔の|色艶《いろつや》のせいか、一瞬、別な女だと思ったのだ。
「……いい女になったじゃないか。」
ヒデは、くすっと笑って、形まで変ったようにみえる唇の間から、舌の先をちろりと出した。
「こすっても、こすっても、|垢《あか》がぽろぽろ落ちるんだもん、|笑止《しよし》かった。」
村では、恥ずかしいことを笑止という。彼は、懐かしい言葉を聞いて、突然村の夜へ連れ戻されたような気持になった。
小屋の部屋に戻ると、彼は黙って寢床を敷いた。寢床は一人分しかなかったが、彼はただ、「枕はお|前《め》に貸してやる。」とヒデにそういっただけだった。ヒデも、寢床のことはなにもいわずに、「いやあ、そんじゃ|兄《あん》ちゃんに悪いなあ。」と、枕のことをそういった。彼は笑って、「なんの。枕ぐらいは、ちゃんとしたものを使ってってけれ。村から持ってきたソバ殻の枕だぞ。」といった。
実は、母屋のおかみさんがヒデの夜具を貸してやろうといってくれたのだが、彼は、なに、俺のに一緒に寢ますからと斷わった。まさかヒデは、いまはもう寢床に粗相などしないだろうが、自分の肉親のことで余分な面倒をかけるのは心苦しかったからである。寢床は一つで沢山なのだ。彼は、村にいるころは毎晩ヒデとおなじ寢床に眠っていた。子供のころから、ずっとそんなふうにして育ったのだ。だから一つの寢床を分け合って眠ることには馴れているのだ。
けれども、その晩、ヒデがシャツとパンツだけになったのをみて、彼は思わず目をそらした。胸の脹らみといい、腰の肉づきといい、すらりと伸びた腳の筋肉の締り具合といい、いつのまにかヒデはもうすっかり女の軀になっていた。並んで仰向けに寢てみると、軀の片側が互いに觸れて、さすがにすこし窮屈だった。餓鬼のころとは大分勝手が違うなと、彼は笑って、
「そっちは布団から落っこちないか?」
「大丈夫。|兄《あん》ちゃんは?」
「俺も大丈夫だが……。」
湯あがりのヒデの軀は、これまで|嗅《か》いだことのない、なにやら鼻の奧をくすぐるような甘酸っぱい匂いがしていた。觸れようとしなくてもひとりでに觸れてくるヒデの肌は、熱くて、なめらかで、しなやかであった。
「こうしよう。こうすると、いくらか楽になる。」
彼は獨り言のようにそういうと、ヒデに背中を向けて、吐息をした。しばらくすると、
「|兄《あん》ちゃん、お嫁さん貰わんの?」
とヒデはいった。笑いを含んだ聲だったが、冗談にしてもヒデにそう訊かれると、辛かった。
「……いつかは貰うさ。」
と彼はいった。
「いつかって、いつ?」
「さあ……わからん。わからんほど、ずっと先だ。俺はいま修業中だからな。そんなことは考えてみたこともない。」
ヒデはそれきり黙っていた。いいたいことがないのではなくて、それがひしめき合って言葉にし兼ねているような沈黙であった。
「お|前《め》のとこには、沢山嫁貰いがくるだろうな。」
彼は、お返しのようにさりげなくそういってみた。それでもヒデは黙っていたが、やがて、
「四十過ぎの男ばっかり。」
といった。
今度は、彼が沈黙する番だった。村の現実を知っている者としては、もうそれ以上のことは訊けなかった。嫁貰いにくるのが四十過ぎの男ばかりだということは、あたり一帯の村々には四十前の若い獨身男がひとりもいないということであった。同時に、四十を過ぎてもまだ嫁も貰えないでいる男たちが大勢いるということであった。そういう人々は、ほとんどが農家の長男たちで、次男三男や若い娘たちは、都會へ働きに出たきり帰ってこない。勿論、良作自身もそのうちのひとりなのだが、彼の場合は長兄が死んだあとも村へ帰ることを拒んでいるのだから、もともとヒデを慰める資格もないのである。
彼は息苦しくなって、
「ところで、明日は町を歩いてみようか。」と話題を変えた。「なんか欲しいものがあったら、買ってやる。なにがいい?」
「……著るものがいい。」
とヒデはいった。素直にそういってくれたので、彼はほっとした。
「著るものって、著物か?」
「洋服。でも、ちゃんとした洋服は要らん。そんな洋服、著ることがないから。ブラウスでもいいし、スカートでもいいし……。」
彼は、ヒデが膝の出たズボンを穿いていたことを思い出して、それじゃスカートを買ってやろうといった。
「ミニを買ってやろう。」
「ミニを?」
ヒデはびっくりしたようにそういうと、音を立てて歓聲とも|溜息《ためいき》ともつかないものを洩らした。
「色は、何色が好きだ?」
「|鬼燈《ほおずき》の色。」
ヒデは即座にそう答えた。
「鬼燈か。赤いミニだな。」
信じられないのか、ヒデはしばらく黙っていた。それから、彼の背中に、そっと額を押し當ててきた。額が、鼻になり、顔になった。しばらくすると、寢息で背中が焼けるように熱くなってきた。
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